魅力ある街づくり

住宅地全体の調和

英国のリースホールドはアメリカに渡り、英国のような”地主(=資産家)が利殖としての土地活用で資産を増やし続ける”よりも、むしろ個人が土地も手に入れて”土地の値上がり益は購入者に帰属する”という「フリーホールド」(持ち土地・持ち家)が選ばれるようになりました。それが「アメリカンドリーム」と呼ばれる開拓の地での一国一城の主です。
自宅不動産を取得した個人は株式投資よりも安定した”含み資産”が得られ、家族構成やライフスタイルが変わって売却する時には”買った時よりも高くなる”のは英国をはじめ欧州の常識。アメリカでもそれが受け継がれました。
そのためには適切にメンテナンスされ、中古住宅であっても多くの人たちが「ここに住みたい」という魅力的な街を維持することが求められるのです。欧米の住宅地に行くと、日本のような狭小地や変形敷地に、窮屈な家を見ることも、隣同士が不釣り合いな外観や壁面の色、バラバラなデザインの家が街並みを壊すといったこともないのです。
建物の単体にどれだけ上質なデザインと素材が使われ、外構をバッチリキメても、隣に来る建物で台無しになるといったことも少なくない日本の住宅地。それぞれ好みも生活スタイルも違う個人が、各々土地を所有し、過半数が「注文住宅」で、それぞれの施主が自分で住宅建築業者(ハウスメーカー、地元工務店、設計事務所など)を選ぶと、街並みに調和や統一感が得られることはありません。個人資産であっても、街並み景観は社会全体の共通の資産であり、お互いが尊重すべきだと考える欧米人は、プロに街並み全体をデザインしてもらい、芝生の手入れも含めて隣近所も美しく維持することに、それぞれが責任を負う社会です。
それは都市計画上も分譲地を販売するデベロッパーも、数十年後も資産価値が上昇し固定資産税収入や中古住宅の売買で将来的な利益が増えることが、個人も企業も、そして自治体も含めて三方良しとなると社会全体が理解しているからです。個人の家だけでなく、街並みも美しく保つにはそれだけのお金と手間が掛かりますが、それ以上に資産価値が上昇するから、皆がデザインのガイドラインやルールを守るのです。
日本のように土地を個人所有にして、それぞれがバラバラな会社に個別の要望を伝え、その家族だけの唯一の住宅を建てれば、それぞれ素人のセンスで選んだカジュアルファッションと同じで、魅力ある街並みにはなりません。しかも特注の建物なので建築費は高まり、他の家族では暮らしにくい間取りで、一生同じ家族がその家で暮らすしかありません。子供たちが独立し、夫婦二人暮らしになっても、中古住宅の市場性はなく、購入時の半値以下でしか買い手がつかないのです。行き着く先は、誰も住まない空き家です。
日本の都市部は相対的に建物よりも土地の価格が高く、自分の支払い能力の範囲で土地まで購入することで、建築に掛けられる費用はおのずと少なくなりがちです。注文住宅まで手が届かない人たちは、返済能力に合わせて企画された建売住宅を検討することとなりますが、売れ残りリスクを避けたい建売業者は、30年で建築廃材となるような安普請の家しか造らないのが日本の不幸です。出来るだけ仕入れた土地に、多くの宅地を入れようとするあまり住環境は最低限となり建物性能も建築基準法スレスレ、20年後には土地代しか価値がない住宅が、平成の三十年間も造られ続けました。
このような状況を回避し、資産価値が続いて魅力的な住宅地をつくるためには、(1)土地を売買対象にしないリースホールド、(2)最低でも6戸単位(向こう三軒両隣)で統一感のある外観をプロがデザイン、(3)維持管理のルールと費用負担が明確、そんな住宅地が求められるのです。
ファッションでも、日本の建売住宅が「囚人服」や「学生服」だとすれば、欧米の住宅地は「フォーマルスーツ」のようなもの。日本のリクルートスーツのような紋切り型ではなく、スーツのデザイン性もさることながら、ネクタイやハンカチーフ、靴下や靴、メガネなどで個性を演出しているのです。街区ごとのデザインや外壁の色の違い(漆喰やレンガなど)は、まるで音楽CDのように、クラッシックとジャズ、ロック、レゲエなどに分かれているように、個性と調和が両立している街並みは人々を惹きつけることでしょう。
先代から預かった土地を、アパート建築や月極駐車場で維持し、固定資産税を支払うよりも、魅力ある街づくりに共感する家族が集まってくるような「リースホールドによる土地利用」を、あなたは考えてみませんか?